2016.02.28
多くの人が犠牲となった震災と原発事故.私たちは,その壮大な悲しみに真摯に向き合ってきただろうか.失われた声に耳を傾け,言葉に命を与えてきただろうか.気鋭の批評家と現代詩人が,生と死の意味,言葉の本質的な役割などをめぐり対話を重ねた.『東京新聞』(『中日新聞』)の好評連載に書き下ろしエッセイを加えて一冊にまとめる.
誰も聞いてくれないからと言って、語ることを諦めてはならない。生れ出ようとする言葉は、他の誰に必要なくても、私たち自身には、どうしても必要だからだ。真摯な言葉であればそれを聞く者は必ずいる。目の前にいなくても必ず存在する。
書くとは、自分と亡き者たち、そして未知なる他者への手紙なのである。
(若松英輔「詩人の誕生―まえがきに代えて」より)
これほどの死を、事実を、きちんと受け止めることができないのは、私たち日本人が乗っている車両の速度が、あまりにも性急だからではあるまいか。少なくとも答えを見出したいのなら、勇気を出して、すぐにでも座り込んでいる列車から降りるべきなのかもしれない。
(和合亮一「いま、静寂に向き合うということ―あとがきに代えて」より)
往復書簡 悲しみが言葉をつむぐとき 若松英輔・和合亮一著 岩波書店刊 定価1,700円+税